トークセッション:若者の未来と教育現場について

続いてのトークセッションでは、東京都のTIB Studentsサポーターと文部科学省のアントレプレナーシップ推進大使を務める、株式会社Kanatta 代表取締役社長 井口 恵氏と、タクトピア株式会社 代表取締役 長井 悠氏が登壇しました。
- 井口 恵氏(株式会社Kanatta 代表取締役社長):元公認会計士で監査法人勤務後、LVMHジャパンに転職。そこで女性がキャリアアップするハードルの高さを感じ、2016年にKanattaを立ち上げ、ドローン・宇宙業界という男性中心の成長産業で女性が活躍できるフィールドを作るため、女性コミュニティ運営とキャリア支援を行っています。
- 長井 悠氏(タクトピア株式会社 代表取締役):東大で藝術学(音楽社会学)を専攻し、音楽の産業的側面に関心を持ったことから、IBMのコンサルタント部門に就職。3年半勤務後、教育と社会のギャップを感じ、2008年のリーマンショックを機に仲間3人で独立し、教育事業を行う「ハバタク」を創業。その後、教育事業をスピンアウトさせ「タクトピア」を設立。タクトピアでは「グローカルリーダーシップの育成」をミッションとし、アントレプレナーシップ教育や国際教育(海外研修や英語プログラム)を行っています。
トークテーマ①:未来について考えよう。若者にはどのような機会が必要か
井口 恵氏

今学んでいることが将来どう生きるのかを考える機会は、もっと必要だと感じています。
私は小学生時代をアメリカで過ごしたんですが、授業のひとつに「テクノロジー」という科目があって、一人一台のパソコンでCGによる橋の設計に挑戦するんです。ただし、条件はできるだけ少ない材料で高い強度を出すこと。いわばコスパ重視ですね。
デザインが完成すると、次は実際に木材で制作し、最後はクラス全員が持ち寄ってミニカーで強度実験を行います。崩れずに最後まで残った橋が、成績最上位として評価される仕組みでした。
学んだことが将来に直結すると実感できたのは、この時が初めてで、その経験は私の進路選択にも大きく影響しました。
一方、日本に戻ってからの理系の授業は、答えが最初から決まっている検証ばかりで、正直つまらなく感じてしまい、その結果、文系に進むことを選びました。
長井 悠氏

私の出身地は茨城県鹿島なのですが、小学生の頃にJリーグの鹿島アントラーズが誕生しまして、ジーコのような世界的スター選手が地域にやって来たんです。
その出来事で街の雰囲気は一変し、外国語に触れる機会も増えて一気に世界が身近に感じられるようになりました。
こうした“局所的に世界が近くなる”体験は、生徒たちにとってもきっとワクワクするものだと思います。私自身、学生時代に海外経験はありませんでしたが、だからこそ生徒たちと同じ目線で、その驚きや学びを共有できると感じています。
トークテーマ②:今できることを考えよう。教育現場をどのように変えていくべきか
長井 悠氏

これまでの教育から探究学習を導入したことで、学校の先生方の工数が正直“爆発”していると感じています。
生徒一人ひとりが自分のプロジェクトを持つようになるため、メンタリングの負担は従来の5倍にもなります。本来は社会的なリソースで支えていく必要があるのですが、現状ではまだまだ不足しているのが実情です。
また学校と社会の“壁”は、もっと溶かしていく必要があると思っています。生徒に何が響くかは人それぞれなので、やはり頻度と数が大事なのではないでしょうか。
そのためにも、学校と外部の専門家とのすり合わせにかかる工数を減らして、もっと自由に外部の人が出入りできる環境をつくっていくべきだと感じています。
井口 恵氏

先生方が答えのない中で授業を進める大変さには、とても共感します。私自身も学生時代、探究学習(当時は総合学習)で何をしてよいか分からず戸惑った経験がありました。
これからは単発の授業だけでなく、どこかの学校に継続的に関わり、外部の専門家としてより深いサポートを提供していきたいと考えています。学校と協力しながら、より良い内容にしていきたいですね。
私自身も学生時代、社会で活躍する大人の話を聞く機会がほとんどありませんでした。だからこそ、今の生徒たちにはアントレプレナーシップ教育を通じて、より多くの選択肢や自分の人生を計画する力を身につけてほしいと願っています。